【短編】高1の夏。僕は女子に呼び出された

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トライオートFX

1995年。平成7年。青春の1ページ。

高校に入り3ヶ月がたった7月。夏休み前の金曜日。
学校から帰ってきて猫と遊んでいると、電話がなった。

同じクラスの女子 Mさんだった。まだ、ほとんど話したことがない。
Mさんは「会って伝えたいことがるの」と言った。
僕はピンときた。まぁ、つまり告白ってやつだ。
僕らは、日曜日の14時に駅前の喫茶店で会う約束をした。
電話を切った後に「これが高校生かぁ!」と思った。

日曜日の午前。
僕は同じクラスのJの家にいた。NとHも含めた「出来立て4人組」で集まっていた。
いつものように『稲中卓球部』を読んだり、セガサターンで『バーチャファイター2』をするも、内心は、みんなソワソワしていた。

もちろん、僕が一番ソワソワしていた。

13時00分。Mさんとの約束の1時間前。みんなでチャリにまたがった。
目指すは5分で到着できる駅前だ。
そして、3分で到着した。
僕は、ありったけ「ドキドキ」していたが、完全に余裕のフリをしていた。

そして、約束の10分前。
僕は言った。「じゃ、行ってくるは。あとで教えてやっからさ」
友人3人は、期待と羨ましさを込めて僕の背中を追ったに違いない。

喫茶店にむかうほんの100mの間。
僕は、この2日間で何度も吟味してきた台詞を唱えていた。
悩みに悩んだすえの台詞は
「ゴメン!今は付き合いたいとか思わなくて。でも友達なら」
「ゴメン。今はまだ付き合いたいと思わないんんだけど、友達なら」
「ゴメ~ン!付き合いたいとか思わなくて。でも嫌いってことじゃないから」
2日間よく考えてみたが、好きというわけではないし、でも傷つけちゃいけないし。
断るくせに、どこかカッコ良さを残そうという魂胆が導き出した答えであった。

喫茶店に入ると、窓際のテーブルにMさんがいた。
僕は「ごめん。ちょっと遅れちゃった」と、1秒も遅れてないのに謝った。
そして、普段はまったく飲まないコーヒーを注文した。
しかもブラックのホットで。
Mさんはジュースを注文した。

しばしの沈黙タイム。
かと思いきやMさんがきりだした。Mさんはかなり積極的で単刀直入だった。

M「ごめんね。日曜日に急に呼び出したりして・・」
僕「ん、あぁ。ぜんぜん暇だったからいいよ!」
M「えっとね。リリー君に話したいことがあるんだけど」
僕「んっ、ううん。なに?」
M「わたし、毎日学校でリリー君を見ているうちに想ったことがあって」
僕「おっ、ううん。」
M「リリー君に直接言いたいことがあって」
M「わたし、リリー君のことが心配だから言うんだけど」
僕「ゴメン!今は付き合いたいとかなくて」
M「このままだとリリー君は畜生界に落ちちゃうのね」
僕「まだ会ったばかりだし友」
M「世の中には十界っていうのがあるんだけどね」
M「地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人界・天界・声聞界・縁覚界・菩薩界・仏界」
M「で、今のリリー君は」
僕「・・・」

その直後に現れた女子大生風のお姉さんとMさんの2人に挟まれ、宗教話を延々と聞かされた。
数珠が守ってくれるとか。

2時間後。ようやく僕はブチ切れて、テーブルを「バンっ」と乱暴にたたき席を立った。
何故か伝票を持ってきてしまい、レジで3人分のお金を支払ってる自分に何ともいえない感情を抱いたのであった。

月曜日。高校の昼休み。
昨日の話をネタにしてMAXまでイジられ尽くされている僕に、追い討ちをかけた者がいた。
近くで話を聞いていた「100%混じりっけ無しオタク」のE君である。

E「あ~その電話、ボクにもかかってきたよ」
僕「えっまじかよ!んで、どしたのよ?お前、宗教入ったんだろww」
E「え~いや~」
E「普通はそんなの行かないでしょ~」
E「だって急に女子から電話がくるなんておかしいじゃん」
E「意味不明だよね」
僕「・・・」

僕は窓の外を眺め、初夏の生ぬるい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「ちくしょう・・・」


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